森の風ようちえん
取材日:2014年11月15日
取材先:森の風ようちえん(菰野町)
レポーター名:松田、張山、太田、高岡、長谷部、村田
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~生きる力を獲得する場所~
三重県三重郡菰野町にあるようちえん。ここでは、園児たちが自然と触れ合い、のびのびと、そしてたくましく成長している。農作を体験することで命の尊さを学び、山に入ることで自然の危険性を学んでいる。それが「森の風ようちえん」なのである。園長の嘉成頼子(かなり よりこ)さんにお話を伺った。
〇命の源流近くで育てたい
今年で8年目となり、現在48名の園児を抱える“森の風ようちえん”は、三重県菰野町の山に囲まれた土地にあるようちえんである。2007年に7人の園児と共に始まったこのようちえんには、ある特徴がある。それは子ども達が散歩の時間に山登りをしたり、自分たちで田んぼを作って出来たお米の収穫をしたりと、自然の中でめいっぱい生きているということである。さらには、1~2歳向けのクラスや卒園生向けの「しぜん学校」もあり、合計156名の幅広い年齢の子どもたちが自然と触れ合っている。
設立のきっかけを嘉成園長にうかがったところ、その根底は、子どもたちの「いのちの感覚」が薄れてきているという危機感からだったそうだ。家庭内での残虐な事件が相次ぐ中で、「子どもたちを自然の中に委ねなければ!大人の用意したカリキュラムでは間に合わない!」という思いがあったという。「子供たちを自然の中で育て、理屈ではなく体験を通して理解してもらう」「子どもたちを命の源流近くで育てたい」といった嘉成園長の想いが、森の風ようちえんに反映されている。
〇生きる力を獲得する
森の風ようちえんのならではの特徴は、従来存在する柵や枠にとらわれない自然の中での教育によって、子どもたちが生きる力を獲得できることである。森の風ようちえんには、園庭もなければマニュアルもない。ここでの教育には、「自分と人のことを大切にする」と「自然が大きなルール」、この2つが重んじられているのである。「自然は常に本当の姿で接していて、そこには嘘や偽りがないから子どもたちに生きる力がつく」と、嘉成園長が語っていたのが印象的だった。自然は日々変わり、マニュアルは通用しない。子どもたちは自然の中で過ごすうちに、自身の能力を理解し、危険を察知し回避できるようにおのずと鍛えられ、「本気で生きる」ことを学んでいるのだ。しかし、ただ自然の中で子どもたちを自由にしているわけではなく、スタッフと地域が協力し合い大きな安全を作ることで、生き生きと健康に過ごせる環境整備を同時進行させてきたからこそ成立しているのである。
協力団体の1つに、地元有志の方たちと共に炭焼き小屋を作り里山の再生と活性を目指している「千草里山塾」がある。子どもたちに野菜の作り方や炭焼きを教えたことがあるそうだ。代表の金津衛(かなづ まもる)さんは、「行く末に子どもたちに勉強になればいいな」と語りながら、取材当日バザーに参加していた子どもたちに満面の笑顔で竹製の鉄砲を作ってあげていた。また、森の風ようちえんの子どもたちはこの地域皆の子どもであると金津さんは語っており、さらには一人一人の名前まで覚えているそうだ。そうしたことからも、森の風ようちえんと地域との繋がりの深さを感じ取ることができるだろう。
〇園児のたくましさ
取材に訪れた時、森の風ようちえんではバザーが開催されており、そこに参加していた保護者に園児についての話をいくつか伺った。その中で、保護者へのインタビューと嘉成園長のお話を伺った上で特に心に残った話が2点あった。
① 田んぼの利用
保護者の方からはほぼ全員の方から“田植え~稲刈り”が印象的な行事だと伺った。これは親子で参加する行事であり、“子どもを命の原点にもどしたい”という園長の思いがもととなった行事だ。そして、園長から田んぼにまつわる子供たちのたくましい姿が聞けた。田んぼの水路が壊れたとき、子ども達は「だったら、直せばいいじゃないか」と話したようだ。先生たちは田んぼの収穫に関しては諦めていたそうでとても驚いていたと嬉しそうに嘉成園長は話してくださった。この幼稚園に通うことでたくましさ、そして、自分の育てたものに対する愛情、自分が直すという使命感などが育まれたのではないだろうか。
② 子どもの危機察知能力
保護者の一人にこんなことを話す人がいた。「(入園して)子どもたちが危険なことをしなくなった。子どもが自分なりに考えてるんだと思います」とおっしゃっていた。さらに、嘉成園長は野外のお泊り会の狭い場所で先生らが火を使ったり、包丁を使ったりとしている中、子ども達は、一切危ないところには近づくことなく遊んでいたと驚きながら話してくださった。子ども達にそんな能力がつくものなのだと驚きをかくせなかった。
〇これから
まず現在行っている活動を落ち着かせてたしかなものにしたいとのことだった。日常・スタッフ・地元を大切にしたいそうだ。また、森の風ようちえんは三重県において唯一の”森のようちえん”である。しかし、全国へ目も向けてみると長野県や鳥取県では複数の”森のようちえん”があり、県からの支援があるそうだ。森の風ようちえんではこれらの県を参考にし、南北に長く自然の多い三重県内に複数の”森のようちえん”をつくり、「森のようちえん連盟」を立ち上げることが目標だそうだ。そして、現在、三重県野外保育研究会を立ち上げ、目標にむかって活動を始めている。
最後に、嘉成園長にとっての森の風ようちえんとは何かと尋ねた。「残った人生を子どもたちのために、し尽くしていきたい。子どもたちが大人になったときに良いものを残したい」と熱く語ってくださった。
嘉成園長の子どもたちへの熱い思いと地域の協力、そして子ども扱いをせずに人として尊び役割を持つ社会の一員として重んじる、「児童憲章」の考えを根底とした教育方針に支えられている森の風ようちえん。その結果、子が育つと同時に親も育ち、自然も生きてくる。地域と森の風ようちえんと子どもたちとが一体となり、相乗効果を今までもこれからも生み出していく、そんな魅力溢れる場所が「森の風ようちえん」なのである。
〇編集後記
<松田>
取材当日はバザーを開催していて、おでん、ぜんざい、工作品を売る子どもたちは、まるでお店の経営者のような風格があることに、まず驚きました。お客さんへの呼び込みが上手すぎて、私たちは自然と引き込まれてしまうくらいでした。その様は自立した1人の大人のように見えるほどでした。その理由は、嘉成園長への取材の中ですぐに見つかりました。ようちえんの子どもたちには確かに、生きる力が備わっているからです。そして、それはようちえんのスタッフの皆さん、ご家族、地域の方々、そして自然、すべてが調和した結果の産物なのだと。今後三重県全域に、さらには全国に、森のようちえんが広がっていってほしいと強く強く感じるとともに、森の風ようちえんを多くの方に知ってほしいとの想いを記事にいっぱい詰め込みました。生きる力、本気で生きるとは何か、この取材経験をきっかけにじっくり考えてみたいと思います。
<張山>
当日開催されていたバザーでは、子どもたち一人一人が元気にお店の運営をしており、活気があってとても楽しめました。また、地域の人々との関わりが深く、子どもたちを「○○さん家の子」ではなく「この地域の子」と捉えているのが素敵だと感じました。幼い頃から自然と触れ合い、命の尊さや「生きる力」を学ぶことができる子どもたちがなんだか羨ましく思えました。ここで育った子どもたちは、そのたくましさを武器にして、きっと素晴らしい未来を築いていくことができるのだろうと思います。こうした取り組みがより認知され、浸透していくことを願います。
<太田>
今回、森の風ようちえんを伺って驚いたこと、それは、ようちえんに通う保護者の方々の反応です。取材に伺った日に、私たちは保護者の方々に直接インタビューを行うことが出来ました。その際に、私は「森の風ようちえんにお子さんを通わせてよかったこと、他の幼稚園との違い」について質問しました。すると、保護者の方々は口をそろえて「のびのびとしている」「最後までやり通す力がついた」等、回答されました。園長先生の想いが、保護者まで伝わっていることにとても驚きました。
<高岡>
今回の取材では、ようちえん主催のバザーに参加させていただき、ようちえんに通われているお子さんの保護者の方にお話を伺うことができました。お話を伺っていく中で、ようちえんの教育方針と、保護者の方の教育方針が完全に一致しているということに驚きました。森の風ようちえんでは料理などの際に刃物を使います。子どもが刃物を扱うことに不安はないのか、と尋ねたところ「痛い思いをしないと、何が『危険』なのかわからないでしょ?」と。それはまさしく園長先生が言葉を重ねていたことでした。こうした思いの一致がようちえんと親の信頼関係を生み、特殊な環境を生み出すことができるんだな、と思いました。
<長谷部>
「いらっしゃいませー!!」と、取材先につくや否や響き渡る、園児の元気な声とパワーに私は圧倒されました。訪れた日には“わいわい市”というバザーが催されていて、園児も売り子となってすべて手作りでできた、おでんやポップコーンなどを売っていました。しかし、園児はやらされている感じは全くなく、自ら考えて行動していて、園長の意思がしっかり園児にも伝わっているなと感じました。園児が売ってくれた手作りの紙飛行機は一生の宝物です。
<村田>
驚きがたくさん。バザーでみた子ども達はみんな活発に動く。話す。接客する子どもは大人顔負け。大人よりも真剣で楽しんでいるようで、大人のような責任感をどこか感じて行動をしているように思えた。子ども達は、全力で楽しんでいた。素直に難しいことに思えるが普段から”枠”のない生活をしているからこそできることなのだと思う。そして、私自身、そんな子ども達をうらやましく思え、自分もそんな気持ちを忘れてはいけないなと感じ、子ども達から学ぶこともたくさんあった取材のように感じた。
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